購入のきっかけ
NewsPicksで「起業家がお薦めする本ランキング」の常連。
ちょうどAmazonのGWセールで半額だったので買いました。
感想
たいていのビジネス書は「余談」、「補足」、「エピソード」で言いたいことを蕎麦の生地みたいに薄く伸ばしている膨らませている印象がありますが、この本は違いました。
有益な情報が簡潔に書かれています。
特に「悩むこと」と「考えること」の違いは即戦力として役立つ知恵でした。
私の場合はアウトプット(成果)=小説を書くこと に置き換えながら読みました。
イシューを見つける→ストーリーを作成する→絵コンテを作成する といった流れはどの分野でも応用できそう。
後半の定量分析は本書で言うところの「経験不足」だったので、いまいちピンとこなかった。
仕事の経験値がたまったら読み返したい一冊。
個人的評価 | |
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タメになった | |
読みやすさ |
メモ
・ビジネスであろうと、サイエンスであろうと「本当に優れた知的生産には共通の手法がある」
・ツールやテクニックではなく、本当に価値あるアウトプットを生み出すために考えなければならないことは何か。
・ロジックツリー、ミーシー、フレームワークは強力なツールであるが、あくまで道具。目的や本質を理解せずに使っても答えを導き出すことはできない。
・何が本当のカギなのか?それが「イシュー」だ。イシューとは「何に答えを出すべきなのか」についてブレなくするものである。知的生産の行き先、目的地となるべきもの。
・考えると悩むの違いとは?
悩む=答えが出ない前提のもとに考えるフリをすること
考える=答えが出るという前提のもとに建設的に考えを組み立てること
仕事において、悩むということはバカげたことであり時間の浪費でしかない。
悩んでいると気づいたら、すぐに休むこと。悩んでいる自分を察知できるようになったほうがいい。悩むと考えるの違いを認識することは知的生産に関わる人にとってはとても重要だ。ビジネス、研究ですべきは「考える」ことであり、あくまで「答えが出る」という前提に立っていなければない。
・「バリューのある仕事とはなにか」という問いへの答えがわからなければ、生産性などあげようがいない。
ではバリューのある仕事とは何か?
2つの軸で成り立っている。1つ目が「イシュー度」。2つ目が「解の質」。
【イシューの定義】
- 2つ以上の集団の間で決着のついていない問題
- 根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題
AとB両方の条件を満たすものがイシューとなる。
文章にすると、
イシュー度=「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」
質の解=「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い」
となる。
※多くの人が「質の解」こそ仕事のバリューを決定づけると考えているが、「イシュー度」こそお金を稼ぐうえで大事である。
ここで絶対にやってはならないのは、多量のしごとをこなしてイシュー度と質の解を高めようとする行為だ。労働量によって上に行き、遠回りして生産性を高めようとする。これを「犬の道」と呼ぶ。
世の中にある「問題かもしれない」と言われていることのほとんどは、実はビジネス・研究上で本当に取り組む必要のある問題ではない。世の中で「問題かもしれない」と言われていることの総数を100とすれば、今、この局面で本当に白黒をはっきりさせるべき問題はせいぜい2つか3つくらいだ。
安宅和人. イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 (Japanese Edition) (p.31). Kindle 版.
この「努力と根性があれば報われる」という闘い方では、いつまでたってもバリューのある仕事の領域には届かない。
・本当にバリューのある仕事の領域に手を伸ばそうとするなら、やることは明快
まずイシュー度を上げ、そののちに解の質を上げていく。まず徹底してビジネス・研究活動の対象を意味のあること、つまり「イシュー度」の高い問題に絞る。
仕事をはじめたばかりでこの判断ができないなら、自分の上司や研究室の指導教官に「自分が思いついた問題のなかで、本当に今答えを出す価値のあるものは何でしょうか」と聞くべきだ。
そして抽出された問題を「イシュー度」の高いものから取り組んでいく。間違ってもかんたんなものから取り組まないこと。繰り返すことで、成功体験を得られれば、それをとっかかりにして、成功の質をあげていく。「使える解」を生み出せる確率をあげていく。
イシュー度の高い問題を絞り込む=時間を浮かせることである。うさぎ跳びを繰り返してもイチロー選手にはなれない。「正しい問題」に集中した「正しい訓練」が成長に向けたカギとなる。
■中期感想1
この本は経営者、研究者、マーケティングの領域で役に立つ話であって、運営スタッフや飲食店のような「末端で働く人たち」の仕事に当てはめることはできるのだろうか?
●バリューのある仕事を理解したら、次にそれを生み出すプロセスを考えよう。
まず、根性に逃げないこと。価値のあるアウトプットが生まれればいいのだから、たとえ一日5分しか働いていなくても、合意した以上のアウトプットをスケジュールどおりに、あるいはそれより前に生み出せていれば何の問題もない。
「一生懸命にやっています」「昨日も徹夜でした」といった頑張り方は「バリューのある仕事」を求める世界では不要だ。最悪なのは、休日出勤を重ねるものの「この程度のアウトプットなら、規定時間だけ働けばよいのでは」と周囲に思われてしまうパターンだ。
成長は意味あるアウトプットをきっちりと出すことからしか得られない。
時間ベースではなく、アウトプットベースで考えるのが大事。
レイバラー(労働者)とワーカーの違いであり、「サラリーマン」と「ビジネスパーソン」、さらには「ビジネスパーソン」と「プロフェッショナル」の違いでもある。
末端社員は「アルバイト=労働の対価を時間で働くレイバラー」として見たほうが良いのだろう。飲食店や運営スタッフなどの現場作業員はレイバラーに該当するのかもしれない。時間を短縮できる方法やアイデア、改善の繰り返しなどミクロの面でもプロフェッショナルな能力が発揮されると思うが、結局のところ、大きな舵取りは結局経営戦略側にある。
「ハンドルを握る側の人」とそうでない人の差である。
プロフェッショナルとしての働き方は、「労働時間が長いほど金をもらえる」というレイバラー、あるいはサラリーマン的な思想とは対極にある。働いた時間ではなく、「どこまで変化を起こせるか」によって対価をもらい、評価される。あるいは「どこまで意味のあるアウトプットを生み出せるか」によって存在意義が決まる。そんなプロフェッショナル的な生き方へスイッチを入れることが、高い生産性を生み出すベースになる。
・論理だけの人間、理系的で表層的なデジタル思考は危険。
問題に立ち向かう際には、それぞれの情報について、複合的な意味合いを考え抜く必要がある。それらをしっかりつかむためには、他人からの話だけではなく、自ら現場に出向くなりして一次情報をつかむ必要がある。そしてさらに難しいのは、そうしてつかんだ情報を「自分なりに感じる」ことなのだが、この重要性について多くの本ではほとんど触れられていない。
一次情報を死守せよは金言。
・犬の道に入らないためには、正しくイシューを見極めることが大切
いろいろな検討をはじめるのではなく、いきなり「イシューの見極めからはじめる」ことが極意。何に答えを出す必要があるのか、という議論からはじめる。そのために何を明らかにする必要があるのかという流れで分析を設計していく。分析結果が想定と異なっていたとしても、それも意味のあるアウトプットになる確率が高い。
「そこから先の検討に大きく影響を与えること」に答えが出れば、ビジネスでも研究でも明らかな進歩となるからだ。
ビジネスであれ研究であれ一人で取り組むことはほとんどないだろう。チーム内で「これは何のためにやるのか」という意思統一をし、立ち返れる場所をつくっておく。一度で十分でない場合は何度でも議論する。これはプロジェクトのとちゅうでも同様だ。生産性が下がってきたときには、チーム全体でイシューの意識合わせを行う。
・相談する相手を持つ
仕事や研究の経験が浅い段階では、イシューの見極めを一人でやることはお薦めできない。面白いアイデアはいくらでも出るだろうが、その手の研究や専門性を持っている人間にコミュニケーションを取り、チェックしてもらうことも大事である。
「知恵袋的な人」をもてるかどうかが、突出した人とそうでない人の顕著な差を生む。
・仮説を立てる
そもそも、具体的にスタンスをとって仮説に落とし込まないと、答えを出し得るレベルのイシューにすることができない。仮説が単なる設問をイシューにする。
イシューと仮説は紙や電子ファイルに言葉として表現することを徹底する。
言葉にできないとイシューの見極めと仮説の立て方が甘いことになる。
言葉に落とすことに病的なまでにこだわろう。
人間は言葉にしない限り概念をまとめることができない。「絵」や「図」はイメージをつかむためには有用だが、概念をきっちりと定義するのは言葉にしかできない技だ。
言葉(数式・化学式を含む)は、少なくとも数千年にわたって人間がつくりあげ磨き込んできた、現在のところもっともバグの少ない思考の表現ツールだ。言葉を使わずして人間が明晰な思考を行うことは難しい。
・言語化では、「主語」と「動詞」を入れることがポイント
主語と動詞を入れた文章にすると曖昧さが消え、仮説の精度がぐっと高まる。
よいイシューの表現は「why」ではなく、「where」「what」「how」のいずれかのかたちを取ることが多い。
<よいイシューの3つの共通項>
- 本質的な選択肢である
答えが出ると、そこから先の方向性に大きく影響を与える。つまり答えまでの道筋が明確になり、選択肢で迷う場面が減る
本質的な選択肢=カギとなる質問
特徴的な例:天動説と地動説、脳神経の単位、ホモ・フロレシエンシスは人類とつながる系統か否か など
選択肢があり、どちらになるのかによってそこから先の研究に大きな影響が出るものがよいイシューである。
ビジネスでは商品力と宣伝方法のどちらに問題があるのか、店舗のフランチャイズの離脱率か運営方法が問題なのか、など
- 深い仮説がある
常識を覆すような洞察があったり、新しい構造で世の中を説明している。
優れた論考や哲学書などに多い
- 答えを出せる
現在の自分の技術・状況で答えを出すことができる
重要であっても答えが出せない問題はいくらでもある。ビジネスや研究の面でいえば、きっちりと答えを出せるイシューがよいとされる。答えが出せない=時間の無駄
・仮説を立てる重要さ
よいイシューを発見するためには仮説を立てるのが有効である。
仮説を立てるためには情報収集が必要だ。
情報収集のコツ①は一次情報に触れることだ。
一次情報というのは、誰のフィルターも通っていない情報のこと。
ものづくりの場合……生産ライン、調達ラインの現場に立つ。現場の人の話を聞く。可能であれば何かの作業を一緒にする
販売の場合……販売の現場に出向く。店頭に立って顧客の声を聞く。可能であれば一緒位活動する
商品開発の場合……商品が使われている現場に出向く。商品を使っている顧客と話をする。なぜそれを使うのか、どう使い分けているのか、どんな場面でどう使っているのかなどを聞く
研究の場合……そのテーマを研究している人、その手法を開発した人の研究室に行く。話を聞き、現場を見る
地方の場合……対象とする地方とそこと対極的な動きをしている地方に出向き、違いや事象を見て理解する
データの場合……加工されていない生のデータにあたり、変化のパターンや特徴を見て理解する
現場で何が起こっているのかを見て、肌で感じない限り理解できないことは多い。
しかるべき会社なり大学・研究所で働いており、相手に「守秘義務にふれることは一切話す必要はなく、そこで聞いた話は内部的検討にしか使われない」といったことをきちんと伝えれば、大半は門戸が開く。
書籍系で情報収集をする場合は、ノウハウではなく基本原則的なものを見ると良い。
情報収集をやりすぎると効率が頭打ちになり、知恵が出てこなくなるので、やりすぎに注意。知識の増大は必ずしも知恵の増大につながらない。
それでもイシューが見つからない場合は、一度頭を休めて、もう一度基本作業を繰り返す。再度一次情報に触れ、見識のある人と議論する。
「So what?=だから何?」という問いかけを繰り返し、仮説を深める。
・解の質を高め、生産性を大きく向上させる作業が「ストーリーライン」づくりとそれに基づく「絵コンテ」づくりだ。この2つをあわせて「イシュー分析」と言う。これは、イシューの構造を明らかにし、そのなかに潜むサブイシューを洗い出すとともに、それに沿った分析のイメージづくりを行う過程だ。これによって最終的に何を生み出すのか、何を伝えることがカギとなるのか、そのためにはどの分析がカギとなるのか、つまりは活動の全体像が明確になる。
どのようなビジネスであれ、作品であれ強みを活かした魅力的なストーリーラインを作ることが大事。
ストーリーがあればチームの活動のブレがなくなり、活動の分担もやすくなる。
経験例:ノベルゲーム制作 基本の土台となるストーリーを書いたからこそ、構成演出BGMなどの分担ができた。
イシューの発見→それを検証するためのストーリーライン(仮説)の作成
→分析イメージのデザイン(絵コンテ)
※ストーリーラインは言葉
※絵コンテは具体的なデータのイメージをビジュアルとして組み合わせた青写真
・分析とは比較である。
定量分析には3つの型がある。
- 比較
- 構成
- 変化 である。
分析による意味合い=比較による結果の違い
・差がある
・変化がある
・パターンがある
・「理解することの本質は既知の2つ以上の情報がつながること」
・オウムにように同じ言葉を繰り返しても意味を覚えることにならない。
「☓☓と●●はたしかに関係している」という情報が実際につながる「理解の経験」を繰り返さなければ、相手の頭には残らない。外国語を学ぶとき、単語帳だけ見ていても覚えられないが、さまざまな場面である単語が同じ意味で使われていることを認知するとその単語を覚えら得られる、というのも同じ話だ。
広告・マーケティングも同じことで、受けての既知の情報と新しい情報をつなげる工夫こそが大切だ。
構想中の小説でいえば、武侠×ラノベRPG×新しい情報
そしてこれが、明確に理解できるイシュー、サブイシューを立て、その視点からの検討を続け、その視点から答えを出さなくてはならないことの理由でもある。常に一貫した情報と情報のつながりの視点で議論をすることで受け手の理解が深まるだけでなく、記憶に残る度合いが大きく高まるのだ。
安宅和人. イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 (Japanese Edition) (p.188). Kindle 版.
僕たち1人ひとりの仕事の信用のベースは「フェアな姿勢」にある。都合のよいものだけを見る「答えありき」と「イシューからはじめる」考え方はまったく違うことを強く認識しておきたい
・検証や分析により欲しい数字が出てこない場合は「構造化」をして別の角度から考えていく能力が求められる。
・人に聞きまくれる能力も強みの一つ。恥ずかしがらずに活用したほうがいい。
経験例:個の能力には限界がある。ソロで制作したゲームと大手企業のゲームの技術の差。
・細かい微調整で完成度を上げるよりは、
1から作り直したほうが完成度は高くなり、さらに時間も短く済む場合が多い。
※1回ごとの完成度よりも取り組む回数(回転数)を大切にする。
経験例:DTMの経験でよくあること。土台作りや全体の流れは早くできるのに、細かいことに長時間かけてしまう傾向がある。
・経験がなければ理解しようがないこともある。
まさに本書の定量分析はマーケティングやデータ分析の実務経験がないので、理解度が低かった。
読了までにかかった時間:約4時間00分