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冲方丁「偶然を生きる」

冲方丁さんについて

小学生の頃、ボクは祖母の家に一人で行こうと遠足を試みました。そして最寄駅を間違えて路頭に迷いました。

夕方、叔父が車でやってきて回収されたのですが、一つだけ大きな収穫がありました。

路頭に迷う中で、個人経営の本屋で見つけたライトノベルの文庫本。それが冲方丁さんの「カオスレギオン0」だったのを今でもよく覚えています。正直当時は表紙を飾るノヴィアちゃんとジークのカッコ良さ・可愛さに惹かれてビジュアルで買いました。

ところが読み始めたら止まらなくて、世界観が深くて観たことない情景が続々と浮かぶようで、当時大変感動しました。読書体験の素晴らしさ!を初めて体感した瞬間でした。

それ以降ボクは冲方さんのファンになり、本を集めました。「ばいばいアースのハードカバー版」や「カルドセプト」は今でも実家の本棚に大切にしまってあります。

感想

そんな冲方丁著「偶然を生きる」は 物語が人生にもたらすチカラとは・人生における経験の種類とは・幸福とは何か、そんな疑問を独自の切り口で道標のように示してくれる良書でした。

冲方さんの本全てに共通する要素があるのですが、それは文章が熱いところです。読んでいくうちに作家の熱意が伝わってくる文章なんです。新書でもそれは変わらなかった。そしてその熱さを膨大な知識と頭の良さ(考え方)が支えていると思います。

この本では人生における経験の種類は第一の経験、第二の経験、第三の経験、第四の経験にカテゴライズすることができると書かれています。

第一の経験は五感と時間軸によるもの。

第二の経験は社会的な経験、価値観、倫理観、道徳感の植え付け。

第三の経験は神話的、宗教的な物語による森羅万象の因果関係の縫合。

第四の経験は人工的な物語によるもの。

間違っているかもしれませんが、自分はこのようにとらえました。

各経験に匹敵するくらい重要なのは時間感覚。時間を積み重ねる感覚がないと、人は価値観を形成することができない。偶然も必然も時間の感覚から生まれてくるもので、それらが物語に強く関わってくる。人は文章を用いるときに常に未来に向かっていくのが普遍的なあり方。文章は未来にベクトルを放っている。そんなふうに書かれています。

物語を書くとき、文章を書くとき、全く意識してなかったことですが、今一度振り返って考えてみると新しい発見ができそうです。

第二の経験(社会的な経験)に取り込まれて常識や固定観念にがんじがらめの状態になると、突発的にそれが崩れたとき(震災など)大きな精神的な打撃を受けてしまうという。第二の経験に侵されまくっている自分は「気をつけなければ……」と読みながら思いました。

植物が光合成を行うように、日頃から違った経験を得られる行動を試みるのも面白いかもしれません。

最終章は幸福について書かれています。本当の幸福は価値観や精神を鍛えていかないと辿り着くのは難しいというのが自分にとって大きな言葉でした。多幸感と幸福の違いもなるほど納得でした。

かつて厳しいと評判の上司に「苦諦」という言葉を教わったことを思い出しました。「四苦八苦のがれようのない苦しみがあればこそ、人は真実の安らぎを求めて努力する」そうです。

うーん、ボクは嫌です!

読了までにかかった時間:約5時間30分

9月12日追記:この本の内容が実際に役に立ちました

映画「活きる」の内容を分析する上で第1〜第4の経験に当てはめて考えることができました。

映画「活きる」は激動の時代を生きる一つの家族を描いた物語です。

劇中、主人公の第二の経験が何度も崩壊します。そして第三の経験を刷り込まれながらも第四の経験に理想を描いて必死に激動の時代を生き抜く家族の姿が描かれています。「偶然を生きる」を読んだ後、ぜひ観て欲しい作品です。

以下ネタバレレビューは下記のリンクから↓

個人的評価
タメになった
読みやすさ
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