作者:アーシュラ・K・ル=グウィン
翻訳:清水真砂子
全六巻からなるゲド戦記の第一巻目
最強の魔法使いの素質を持つ少年ゲドは、己の傲慢さ、自尊心、虚栄心などから現世と冥界の狭間に潜む闇(影)を呼び出してしまう。影から逃げ続けたゲドは、数々の苦難を乗り越え、様々な人々と出会い、心身ともに成長し、遂に己の影と対峙することを決意する。
感想・学んだこと
なぜもっと早くこの名作を読まなかったのだろう。
学生時代にファンタジー系のRPGやノベルゲームを作っていた過去があるのですが、タイムマシンに乗って当時の自分にこの小説を渡してあげたいほど上質な世界観の作品でした。
魔法はなぜ生まれるのか、言葉のチカラとは何なのか、それが森羅万象とどのような因果関係があるのか。
そういったファンタジーの設定を考える人にとって、この小説はまさにうってつけで、聖書のようなものでした。
簡単に説明すると、ゲド戦記の世界(アースシー)にはあらゆる物に対して普段呼んでいる名前の他に真の名前が存在します。
この真の名前を探り当てて操り、力を引き出すことで魔法の威力は飛躍的に上昇する。
だからアースシーに住む人々は自分の本当の名前を無闇に教えようとはしません。※ゲドはハイタカと名乗っています。
ゲド戦記にはこのようなファンタジーならではの魅力溢れる世界観が凝縮されています。
また、登場人物のセリフの一つ一つに含蓄があります。
光はそれ自体で存在するんだ。太陽の光も星の光も時間だ。時間は光なんだ。そして太陽の光の中に、その日々の運行の中に、四季の運行の中に、人間の営みはあるんだよ。たしかに人は暗闇で光を求めて、それを呼ぶかもしれない。だけど、ふだん魔法使いが何かを呼んでそれがあらわれるのと、光の場合とはちがうんだ。アーシュラ・K.ル=グウィン,清水 真砂子. 影との戦い (ゲド戦記) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.7128-7134). Kindle 版.
セリフの一つを引用させていただきましたが、言ってることは難しいのに、難しい言葉を使わず、誰にでもわかるように書かれているところに作者の力量を感じます。
個人的には中盤に登場するゲドに懐いてペットになる「オタク」という動物が好きでした。
オタクの名前はゲドが「ヘグ」と呼び可愛がります。そしてヘグは何度もゲドのピンチを救います。
傷ついた仲間のからだを舐めて癒そうとするのは、もの言えぬ動物たちの本能的な知恵である。けれども、ゲドはこの時、その知恵の中に、何か自分の力と似通ったものが、何か魔法と似て深く神秘的なものがひそんでいるのを感じとった。アーシュラ・K.ル=グウィン,清水 真砂子. 影との戦い (ゲド戦記) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3696-3703). Kindle 版.
ワクワクしてきませんか? ヘグは「風の谷のナウシカ」のテトのモデルになっていると言われています。
序中盤のローク魔法学院編ではハリーポッターのような雰囲気を見せてくれますが、後半は非常に冒険要素の強い内容となっています。
魔法学校時代の仲間が終盤チカラになってくれる友情出演も好きです。地図を見ながら読むとさらにワクワクします。
ジブリの宮崎駿監督が「本(ゲド戦記)はいつも枕元に置いてある。片時も放したことがない。悩んだ時、困った時、何度読み返したことか。告白するが、自分の作ってきた作品は『ナウシカ』から『ハウル』に至るまですべて『ゲド戦記』の影響を受けている」と言うレベルの作品ですから、正直レビューで点数を付けるのすら恐れ多いです。
子どもから大人まで老若男女誰でも楽しめる名作です。
翻訳も綺麗。そして情熱を感じる文章でとても良かったです。巻末のあとがきも感動しました。
ちなみに宮崎吾郎監督作品の「ゲド戦記」はまだ未鑑賞です!
原作のゲド戦記シリーズを読破したあと、じっくり楽しみたいと思っています。
読了までにかかった時間:約8時間00分
・魔法を題材にしたクリエイティブな仕事、趣味をしている
・人間だけでなく動物や自然にも興味関心がある
・ミヒャエル・エンデの作品が好き
個人的評価 | |
---|---|
物語 | |
文章 |