作者:金庸
翻訳:岡崎由美
初版:1967年(原作)
原題:秘曲 笑傲江湖
全7巻
笑傲江湖とは
金庸といえば射鵰三部作とこれ!
8年前、夢中になって読んだ笑傲江湖を改めて読み直しています。
この物語の魅力はやはり好漢中の好漢「令狐冲」でしょう!永遠のヒーローです。
第一巻では林家の秘伝奥義書「辟邪剣譜」を青城派が狙い、襲われた林家の嫡男である林平之を視点に物語が動き出します。
感想(ネタバレあり)
初見の読者はいい意味で騙されます。
本当の主人公である令狐冲が実際に登場するのは第一巻の終盤だからです。
しかも、令狐冲はある出来事の回想として初登場し、語り手の儀林は「令狐さんはわたしのせいで死んでしまった」と嘆くところから始まるのです。令狐冲は見返りを求めず自分の名前を偽ってまで、見ず知らずの尼さんの儀林を助けようとするも、田伯光に襲われて危篤状態になってしまうのです。
令狐冲は傷つきながらも田伯光の剣法を親指を立てて褒めたりします。田伯光も相好を崩して「良い男だ!」と令狐冲に親しみを覚えます。
しかし、いくら令狐冲が英雄好漢で魅力的な人物に描かれていたとしても、死んでいるのならそれはもう回想のなかで完結してしまいます。
当然読者は今までの出来事、これからのことを考えて林平之が主人公と思って読み進めます。林平之は最初に登場し、両親が攫われ、屈辱にまみれながら復讐と己の成長を誓う物語の中心人物ですから、それも納得です。
ところが中盤以降もまだまだ令狐冲の話が続くのです。最後のほうでようやく生きていた!ということで登場します。
「ああ、令狐冲生きていたのか! 林平之じゃなくて、このまま令狐冲の物語が読みたい」
というところで第二巻に突入します。
そして第二巻の登場人物のページで驚愕します。林平之ではなく、令狐冲の名前が最初のほうに出てくるのです。つまり彼を軸に物語が動き出すのでは……という期待を抱きます。その期待に応えるように物語は令狐冲を中心に動きだします。
この演出、構成の面白さ、まさに金庸節炸裂!ですね。
なぜこのような手法が成立するのかというと、個性的な人物が次々と登場し、あっけなく散っていくからです。だから令狐冲のような人物が死んだとされても、「あっけなく魅力のある人物が死ぬ世界」なのだと読者が認識してしまうのです。それが金庸の凄さですね。
令狐冲の物語はこれから動きます。第一巻は助走みたいなものです。
さぁ第二巻だ!
読了までにかかった時間:約4時間